ある日、兼松から一本の“良くない報告”が入る。
それは、先述にて私が「必ず起こる」と予見した、“人”に関わる新たな問題だった。
問題としては「二番目に入社した新米職人のデニーさんの仕事が良くない」という話だったのだが、報告の中で兼松が最も危惧していたのは、その問題そのものではなく、そうした事態に対する”職場の対応”だった。
まず、仕事が良くないというのは、平たく言えば、彼が川上の指示通りに仕事をこなさないという事だ。
そして、兼松が問題視していたのは、そうした状態が続く中で、彼と職場の他の皆との距離が、以前よりも随分と遠いような雰囲気があるという事だった。
“なるべくしてなった”事態ではあったが、これはとても残念な報告だった。
デニーさんといえば、明るさがウリのムードメーカー的なキャラだったはずだ。
確かに、彼よりも先に入社した“見るからに真面目一徹”のヤンさんと比べれば、ある種の”軽さ”を感じる部分もないではなかったが、決してダメな人材ではないと私は思っていた。
また、いつも陽気で笑顔の気さくなキャラというのは、本来、延々黙々と作業をこなし続ける静かな職場において、まさにムードメーカー的な存在として重宝されるべき存在でもあったはずだ。
しかし、そんな彼でも、ひとたび“負のスパイラル”に入ってしまうと、一気にまるで”厄介者”の様な存在に陥ってしまうのだから恐ろしい。
もちろん、川上も他の誰しも、故意に悪意を持ってそういう環境を生み出しているわけでは決して無い。
むしろ悪意によって陥った事態の方が解決は全然簡単なのだが、無意識から起こる、”雰囲気”や”風潮”によって生まれる問題というのは、その当事者全員が、真に心の内から”自分自身の何が悪いのか”に気付かない限り、なかなか改善は難しいのだ。
しかも、その論理を”外側”から説明しようとすると、”内側”の人間としては、これまで必死で努力して築き上げてきた仕事を否定されたという誤解を与えかねないから恐ろしい。
特に、普段現場にいない私の様な人間からの提言であれば尚更だ。
しかし、だからといって全く遠慮する様なキャラでは私はないし、当然に看過できる問題でもない。
もちろん敬意を持っての上で、言葉も選ぶが、私ははっきりと川上に言わせてもらうことにした。
というよりも、次に”人の問題”が浮上したら、「どれだけ工場の改善が進んでいようとも、必ず話をする」と決めていたのだ。
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