諸々のトラブルに少しずつ収束の兆しが見えかけた頃、私やガズさんが最も気掛かりにしていたのは“納期”だった。
かなりのマージンをとって設定した納期だったが、まるで“モグラ叩き”のように次々に発生する様々なトラブルによって、もうすぐそこまで迫っていたのである。
川上の尽力もあり、なんとか第一陣の納期の最終工程までは進んでいたのだが、ここでも最後の最後に落とし穴があった。
仕上げの品質にバラツキがあったのである。
もちろんトムさんへ差し戻して直ぐに修正に取り掛からせたのだが、トムさん達だけでは手が足らず、最終的には川上自らも作業に加わって寝る間も惜しんでリカバーを続け、どうにか満足の行く出来映えにまで辿り着くことができた。
しかし、それでも最初の納品は、予定から2週間も遅れてしまったのである。
川上は相当に消耗していた。
しかし最悪な事に、彼にとっての本当の地獄はまさにこれから始まるところだったのである。
誤解が無いように言っておくと、ここまでの段階で大いにトラブルには見舞われていたが、川上によってそのトラブルが克服される度に、間違いなく“改善”は進んでいた。
少なくとも製作におけるトムさんの暴走は直り、川上の指示で仕事が進むというルールも確立してきた。
また、こちら側が求める品質に関しても、一連のトラブルの解決を通して理解が深まり、品質は格段に向上してきたのである。
これらは、間違いなく川上の尽力による功績であった事は言うまでもない。
しかし、そうした製造に関わるトラブルとは全く異質の次の問題が我々の直ぐ側まで迫っていたのである。
これには“奇妙な予兆”があった。
その予兆に最初に気づいたのは川上だった。
川上がトムさんの工場に足を運ぶ度に、少しずつ“あるもの”が増えていたのである。それは、“高額な新しい設備”であった。
トムさんが言うには、今後の我々からの大量受注を見越して、生産性と品質の向上を行うべく、新しい設備を導入したという事であった。
筋は通っているが、この話が実に不自然で不可思議なのは、彼の“金の出どころ”についてであった。
川上の報告によれば、それらはかなり高額な設備機器なのだそうだ。
いやらしい話で恐縮だが、私が勝手に推測するところのトムさんの所得から考えると、相当に無理をしたとしても、そうそう買えるような代物ではないはずなのである。
私は怪訝に思う気持ちよりも、直感的に嫌な予感がしてならなかった。
そして、またしてもその嫌な予感は的中する事となるのである。
\ R A N K I N G /
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