世界中に蔓延した“新型コロナウイルス”の影響は、当然にベトナムでもあった。
私が今年の二月上旬に不要不急ならぬ”喫緊の用”があり、ホーチミンを訪れた際の事だ。
まず驚いたのはタンソニャット国際空港に到着して早々の事だった。
イミグレーションの直前に、驚くほどの長蛇の列が出来上がっていたのだ。
実はこの日の前日、ベトナム政府から、入国前の旅客に問診票の提出を義務付けるという御達しが出ていた。
しかし突然の通告だったため、私も含め旅客の知るところではなかったのだ。
そのため、空港内はこの突発的な措置の手順がわからない人達でごったがえしていたのである。
また、いつもは旅客を出迎える人や車で混雑している空港の出口も、驚くほど人が少なかったのが印象的であった。
街に出てさらに驚いたのは、空港からホテルへ向かうタクシーでの事である。
まず、車内に”乗客用のマスク”が用意されており、乗客はその着用を強く促されるのだ。
そして走り始めると、いつもは“蟻の大群”あるいは“イワシの群れ”のように連なっている恒例のあのバイクの群れの姿がどこにもない。街中が驚くほど閑散としており、道路はかつて見た事がないレベルで空いている。
そのため、タクシーもいつものノロノロ運転ではなく、ここぞとばかりに、怖いぐらいのハイスピードで飛ばしまくっており、いつもであれば30分、渋滞が酷い時には1時間近くはかかる道のりが、今回はものの十数分で辿り着いてしまった。
そしてホテルに到着すると、ホテルマンは全員マスクを装着しており、宿泊客は入口でのアルコール消毒が義務付けられていた。
いつもは深夜に至るまで人集りが賑わいを見せている“グエン・フエ通り”も、一部の場所に観光客が疎らに見える程度で、閑散としている。
実はこのタイミングでベトナムに行く事については、喫緊の用と言えども、日本国内のビジネスパートナーや友人から心配の声も多かった。
しかし訪れてみれば、二月当時の日本と比べて、ベトナムの方がはるかに厳しい対策が行われていたのであった。
街中を移動するにも、バスは運休で、タクシーもほとんど営業していない。
そうなると”GLAB”というバイクタクシーのみが移動手段になるのだが、それも”日本人”だということで敬遠されてしまい、足の確保にも苦労するといった状態であった。
なお、私が帰国して1週間も経たない内には、ベトナムへの入国には14日間の隔離義務が設けられ、さらにそれから数日と経たない内に、国際線、国内線の全ての航空便がストップしたのであった。
帰国後、まず兼松から受けた一報は、ホーチミンにあるIT事業部のオフィスをテレワークにしなければいけないという報告であった。
政府からの通告により、10名以上のオフィスでは密集を防ぐために出勤が許されないという事だ。
そうなると当然に工場の方も心配となるのだが、こちらは、幸いと言うべきかまだ人数が少ない上にスペースも広いので、その時点では問題なしという事であった。
ただし、ベトナム政府の考え方一つで、どうなるかわからないという、とても不安定な状況に置かれる事となったのである。
もちろん、万が一社内で感染者が出た場合には、本人のみならずスタッフ全員が家族と共に隔離され、もはや仕事どころではなくなってしまうのだ。
当時、工場では新たな求人面接を行う予定もあったのだが、郊外から人口の多いホーチミンに訪れるのは危険という事で、こちらもペンディングとなってしまった。
更に、国際航空便が大幅に減便され、わずかに残った便も食料品など優先度の高いものの輸送が最優先となったため、工場で海外から取り寄せている一部部材の調達が大幅に遅れて再入荷の目処が立たなくなったり、さらには出来上がったウクレレを日本に送る事が出来ないなど、非常に困難な状況に陥ってしまったのである。
それでも何とか活路を見出すために、輸送会社に奔走してもらった結果、ギリギリの攻防の末、幸いな事にいくつかの国を経由して日本に送り届けるなど、何とかリカバリーを果たす事はできたものの、大変申し訳ない事に、かなり“大幅な時間的ロス”が生じてしまった。
結果、予約注文を頂いたお客様には誠に遺憾ながら、多大なご迷惑を掛けてしまうという最悪な流れとなってしまったのだ。
とはいえ、人口約9500万人都市で、感染者はわずか320人、そして死者を”0”に抑えたという結果を見れば、これらのベトナム政府の施策は、少なくとも感染拡大防止という観点で見れば間違いなく成功であったと言わざるを得ないだろう。
SARSにおける被害から学んだ事も多かったのだろうが、本当に素晴らしい成果であると思う。
何より、スタッフ一同が一人もコロナウィルスに感染する事なく、今日に至るまで無事でいられた事に関しては、こうしたベトナム政府の対応に、感謝の意を表さなければなるまい。
今日では、ベトナム国内におけるほとんどの制限が解除されており、夜の飲食店なども灯りを取り戻し、少しずつ街の活気も復活しつつあるようだが、まだまだ、日本からベトナムへの自由な行き来は難しい状況だ。
状況は日々改善されていく気配はあるものの、まずは日本国内のコロナ対策が進み、日本が”世界から見て安全な国”となり、再びベトナム人に不安を与える事なく訪越できる日がとても待ち遠しいのだ。
一刻も早く新工場に訪れて、スタッフ達に顔を見ながら直に話したい事が山ほどあるのだ。私はもう、うずうずして気が狂いそうなのである。
次回
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