< vol.6 「歯車が動き出す!視察の果てに得たものは?①」
工房KSPは、私が想像していたウクレレ工房とは随分と異なるものであった。まず、住所の記載に従って到着した場所は、ウクレレ工房ではなく、古い倉庫を改装したであろうトランポリンの練習場だった。
住所を間違えたかもしれないと思い、電話で再確認してみたが、ここで間違いないと言う。怪訝に思いながらもトランポリン練習場に入り挨拶をしてみると、入り口すぐ手前にある事務所らしき小部屋から、天然アフロが印象的な一人の青年が出てきた。
このアフロ青年こそが、川上くんだった。
彼にその小部屋に招き入れられたのだが、中を見て驚いた。工房がこの小部屋の中にあったのだ。
小部屋自体はおそらく12畳ほどの広さで、おそらくはDIYであろう間仕切りが施され、おおよそ半分の6畳程度が工房スペースになっている。その工房スペースには所狭しと作業台やウクレレ製造用の機材が並んでおり、人が動いて行き来できるスペースとしては4畳半もなかったと思う。
しかし、いかにも使い込まれた工具や、やや無骨に壁に掛けられた彼の作品、床に堆積した木の切り屑、そしてこの工房全体に漂う木の香りを感じた時、私はここが”本物の職人”が働く、紛うかたなき”ウクレレ工房”だと実感した。
私はまず、お目当てだった彼のウクレレを弾かせてもらった。そのウクレレは、facebookで何度か見かけたとおりの奇妙なカタチをしていたが、弾いてみると、驚くほど繊細で素晴らしい音色を響かせた。
ボディは頭が細くお尻のでかいヒョウタンのような形をしており、先端が細いせいか通常のウクレレよりも随分小さく感じたが、その小ぶりさからは想像できないほどの音量で良く鳴ったのがとても印象的だった。
私は彼に、このウクレレの不思議なカタチの理由を聞いてみた。すると、彼はまずウクレレ製造の細かな歴史について語り始め、そこから自分のウクレレのカタチのルーツやコンセプトについて、事細かに私に説明してくれた。その時の彼は、電話でややぶっきら棒に感じられた男と同一人物と思えないほど、雄弁で情熱的だった。
何度も言うが、その時の私はウクレレ入門者であった。だからウクレレ製作の詳細な話を聞かされても、実際には半分どころか3分の1も理解できていなかったが、それでも私は、彼の話に聞きいってしまった。
何故なら、彼の話は本物の職人が発する熱のある言葉によって紡がれており、ウクレレの話を通じてまるで彼自身の人生を語っているかのような重みを感じたからだ。有り体に言えば、とても面白くて興味深い。
すっかり彼のウクレレを気に入った私は、彼にこのウクレレの価格や納期を尋ねてみた。すると彼は、驚くほど安価な金額を提示してきた。
正直な話、私が想像していた金額の半額以下である。
彼は良い意味で私がその価格に驚くものと思っていたかも知れない。だが、私の反応は全く逆のものだった。私は少々面倒くさい客であるので、「安すぎる」と率直な感想を彼に伝えたのだった。
モノが良くて価格が安いのは、客としては大変喜ばしい事だ。しかし、彼自身の人件費や、材料の原価などを想像すれば、深く考えるまでもなく、整合性がつかないプライシングである事は明白であった。それに、原価云々を差し引いたとしても、彼の技術が詰まったこの素晴らしいウクレレの価値はそんなに安いものではないと思った。
おせっかいかもしれないが、私は彼にこのウクレレはどこかに卸しているのか尋ねてみた。すると、「ごく一部の楽器量販店に委託販売という形で置かせてもらっているが、ほとんど動いていない」という。
確かに彼のウクレレは、おおよそ量販店に似つかわしくない製品ではある。なので私は、もっと玄人好みのショップでは販売しないのかとさらに聞いてみた。彼の答えるところによれば、ある有名店に取り扱いを頼みに持ち込んだところ、ウクレレそのものは高く評価されたものの、「ネームバリューのないモノは置けません」と断られたという事だった。
苦々しい表情を浮かべる彼に、私はこの際なのでストレートに聞いてみた。この工房、上手くいってないんじゃない?と。
彼は思い詰めた顔で頷いた。そして何と、実は今、職人を辞めるべきかどうかを本気で悩んでいるところだと吐露したのである。
それから彼は、自分がどういう経緯でウクレレ職人になるに至ったのか、私に打ち明けてくれた。
聞けば、彼は元は大手ギターメーカーの高嶺楽器製作所(タカミネギター)のギター職人だったのだそうだ。長年勤めていたが、企業体質に馴染まず退職し、そこから大手ギターショップのリペアマンなどの職を経て、最終的に自分の理想とする楽器づくりを実現するために、一念発起して独立。そうして、この「工房KSP」を開いたのだと言う。
しかし経営は上手くいっておらず、副業として運送会社で働きながら、何とかここまで頑張り続けているのだと彼は語った。
さらに彼は既婚者であった。奥さんも共働きで彼の夢を支えており、それも今のままでは申し訳なく思っていると言う。
職人を辞めたい訳では決してないが、続け方がわからない、そんな様子だった。
私は率直な感想を彼に伝える事にした。全くもって辞める必要は無い。全然売りようはあるし、実のところ大して難しい問題ではない、と。
次回「歯車が動き出す!視察の果てに得たものは?③」に続く。
\ R A N K I N G /
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