新人二人が増えた川上工房はまさに戦場のような大わらわとなっていた。
生産を稼働させながらの新人教育はやはり想像以上に骨が折れるのだ。
加えて川上は“セミオーダーの製作”も進めなければならなかった。
しばらく様子を見ていたが、このままでは収拾がつかず、流石にまずい事になりかねないという事で、再びあの“業務管理の達人”にマネジメントを依頼した。もちろん“兼松”の事である。
彼はいつもの如く、美しくタスクを整理し、“Redmine(レッドマイン)”という業務管理システムを使って管理を始めた。
このシステムは、主にITソリューションで活用されているものだが、全てのタスクが30分単位の目標値で設定され、担当者ごとの一日のタスク管理から全体タスクの俯瞰まで、ガントチャートを使って、非常にわかりやすく管理を行う事ができる。
つまり、職人スタッフは、“闇雲な仕事をせず”に、ここで自分のために設定された一日の仕事をこなせば、確実に設定された納期までに仕事を終える事ができるのである。
ここで重要なのは、ただ一所懸命にエネルギーを投下し、ひたすら“頑張るだけ”では、“必ず納期に遅れる”という事だ。
一人ならまだしも、複数人のチームで動くとなれば、職人それぞれの仕事が、必ず“次の職人の仕事”に繋がっており、そうした事が数珠つなぎに延々と続くのがウクレレ製作活動である。
サッカーにおいて、ゴール前まで美しくパスを繋ぎ続ける様なイメージだ。
1プレーヤーが“強引なドリブル”でボールを持ち続けていては、そのプレーヤーがどれだけ優秀であったとしても、なかなかゴールまでは辿り着けないし、そもそもチームとしての“最大限の力”を引き出せず、またチームとしての成長そのものも阻害してしまう。
それ故に“パスの合理的な順序”こそが最も大切となるのだ。
こうしたスケジュールの設計を行うには、そもそもウクレレ製作における全工程がどのようなものなのかを、まずは正確に把握しなければならない。
この話で面白いのは、何故ウクレレ製作において“門外漢であったはずの兼松”に全工程の把握ができたのか?という事である。
もちろん、川上からのヒアリングによるところもあるが、それに加え、何と彼は“プレーヤー”として“作業そのものに参加していたのだ。故に彼はウクレレ製作における“ほぼ全工程”を既に把握していたのである。
余談だが、兼松は私と違い手先がとても器用だ。
以前、日本からウクレレサイズのギターをベトナムに運び込もうとした際に、サイズが小さいので、当然機内に持ち込めるものと思い込んでいたのだが、ギリギリサイズがアウトとなり、スーツケースなどと一緒に預けなければならなくなった事があった。
しかし、繊細な楽器であるので、このまま預けるのはどうかと悩んでいたところ、同行していた兼松は、どこからか大量のダンボールを集めてきて、いきなり物凄い勢いで工作を始めた。
そして出来上がったのが、即席とは思えないクオリティの“簡易なギターケース”である。
何と楽に持ち歩ける様に取手まで付いていた。まるで“ノッポさん”である。
兼松は、仕上げ作業くらいは手伝えるのではないかという事で、川上から作業のレクチャーを受け、仕事の合間や仕事後、更には休日を返上して作業を手伝っていた。
そしてその実力だが、川上いわく、“なかなかの腕前”であるという事だ。
後に本人に聞いたところ、落ち着いたら、そのうち自分のウクレレを作ってみたいと言っていたが、どうやら本人的にもウクレレ製作の仕事は、それなりにお気に入りの様だ。
ともあれ、兼松のタスク管理により、何とか先が見えてきたわけだが、今回の件で浮き彫りとなった“川上の弱点”こそが、まさに第二、第三の波乱を巻き起こす“大きな要因”となるのである。
次回
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