< vol.4 「川上くん、やり手社長に煽られる!?」
そして最後に紹介するのは、例のタクシーの運転手が紹介してくれた、あの工場だ。
工場に到着してまず我々が驚いたのは、まだ小学校中学年か高学年くらいの少年が、堂々とタバコを吸っている光景だった。世界中で禁煙の風潮が広まる中、この絵面はかなり衝撃的であった。
私は学生時代に映画「スタンドバイミー」を見たときに、主人公の少年達が秘密基地でタバコを回し吸いしている映像を見た時の何とも言えない衝撃を思い出していた。
家族で営んでいるこの工場で、彼はまだ職人というわけではないものの、しっかりと雑用を手伝っているようである。
この工場を初めて見た時、私は率直に「みすぼらしい工場だな」という印象をもった。事実、この視察ツアーで訪れた工場の中で、見てくれは間違いなくこの工場が最もおんぼろであった。
応接などはなく、打合せは工場の土間にプラスチックの椅子を置いただけのスペースで行う。当然エアコンはなく、業務用の古びた扇風機が申し訳程度に回っているだけだった。打合せの途中にトイレを借りたのだが、このトイレがまた酷い。洋式なのだが、便座はなく、水も満足に流れなかった。女性や大をする時は一体どうすれば良いのか?疑問を持たずにいられなかった。
しかし、そんな見すぼらしい有り様とは裏腹に、我々は、この工場のポテンシャルの高さに驚かされる事となる。
最初にそれを発見したのはガズさんだった。
「上田さん、これ見てよ!」
そう言ったガズさんが指差したものは、“極めて普通”に床に積み上げられた木材の山だった。
そして、その木材をよく見ると、あっと驚くほど良質で、綺麗なカーリー(模様)が見て取れた。失礼ながら、この工場の外観や内観からは想像が付かないほど良質な木材である。
言い方を変えるなら、我々からしてみれば、まさに”宝の山”がそこに転がっていたのである。
我々と話をしたオーナーは、身長は低いものの強面で、彼のその独特な風貌と工場の雑多な雰囲気とがあいまって、ある種の怪しげな雰囲気を醸し出していた。率直な第一印象としては「麻薬の密売工場のリーダー」という感じであったが、その実はというと、筋金入りの職人気質な男であった。彼の話に耳を傾けていると、本当にウクレレ作りを愛しているのだな、というのが伝わってくる。
「品定め」と「模作」という当初の目標に立ち返って、彼の製作したウクレレを手にとって吟味する。これまでの視察先で見たものとは段違いというレベルで、ガズさん、川上くん共に、かなりの高評価であった。私も手にとって弾いてみたが、これまでの視察先で触れたウクレレとはまるでクオリティーが違う。鳴りも音質も極めて質が高いことが、ウクレレ初心者の私でもはっきりと理解できた。
オーナーと川上くんのウクレレ談義は、これまでの視察先とはまるで違う熱の入りようで、かなりの盛り上がりをみせた。一体何を話しているのか、素人の私では半分も理解できなかったが、どうやら、この工場でのウクレレの製造方法や使用木材について、細かく説明を受けているようだ。具体的な内容まではわからなくとも、川上くんがこのオーナーに対し、同じ職人として、かなりの敬意を持って接している事だけはよく伝わってきた。
二人の職人の談義がはじまって30分ほどにもなろうか、話題は一向に尽きる気配をみせず、少々可哀想ではあったが、私は途中で割って入って、本題である試作ウクレレの模作について話を進める事にした。何しろ弾丸視察ツアーで、時間的な余裕がなかったのだ。
依頼したい模作の内容について川上くんが説明を始め、オーナーは川上くんの説明を真剣に聞く。そして丁寧に試作ウクレレのスケッチを取り、事細かにメモを書き込んでいた。
そうして、我々はひとまずやるべき仕事を終え、この工場を後にすることにした。
川上くんは、まだオーナーと話し足りないのだろうか、いささか名残惜しそうであった。
この時の我々はまだ、この出会いが数ヶ月後に「G-Labo」の存亡を揺るがすとんでもない大波乱を巻き起こす事など、知る由もなかったのである。
次回「歯車が動き出す!視察の果てに得たものは?①」に続く。
\ R A N K I N G /
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