兼松の介入により、ひとまずは再び前に歩み始めた川上工房であったが、今回起こった問題の“根本的な原因”がどこにあるのかは、考えるまでもなく明らかであった。
実は兼松が介入する以前にも、川上に何度か納期の確認を行っていたのだが、「遅れそう」という返答こそあったものの、一向にリスケの予定の報告があがってこないという状態が続いていた。
また、「何が原因で遅れているのか?」という問いに対しても、曖昧な回答に終始し、明確な返答が得られていなかったのだ。
つまり、その時点で明確な”生産フロー”が出来ておらず、そもそも工程が立っていなかったという事なのである。
しかし、私的には、これは単純に“川上の仕事が悪い”という風には思わなかった。
恥を晒すようだが、むしろ“私のマネジメントミス”によるところが大きいのだ。
何度も言うようだが、川上は“筋金入りのプロの職人”として大変優秀である。
しかし、決して“プロのマネージャー”ではないのだ。
たとえ彼が大手ギターメーカーの出身であって、生産に関わる既知のノウハウがどれだけあったとしても、彼自身がその生産フローや運営の仕組みまでを作ったわけでないのだ。
それに、“管理職”というのは、言うまでもなく、“一種の専門職”だ。
川上が研鑽を積み重ね、一職人として成熟したように、管理職というのも、一流となるためには、当然に“それ相応の研鑽”が必要となる。
つまるところ、今回の件で言えば、事前に川上から必要となる“工場の運営に関わるノウハウ”をヒアリングし、初めから“管理職のプロ”である兼松に、工房における“最適な生産フロー”を構築させ、“精度の高い工程”を組ませておけば、こうした問題は起こらずにすんだのである。
もちろん、川上の“マネージャーとしての進化”も大いに期待しているので、ここでも必死に研鑽してもらいたいのは山々であったが、“このタイミング”でそれに挑戦させるには、さすがに余裕がなさすぎたのだ。
故に、今回は素直に間違いを認め、私は兼松に修正を依頼したというわけだ。
とはいえ、得るものがなかったわけではない。
“出来ない事がわかる”というのは極めて有用な情報なのだ。
経営において、“白地図”に正確な“新しい情報”を書き加え続ける事で、より精度の高い地図を作り続ける事はとても重要だ。
情報が少なく精度が低ければ、思わぬところで座礁するだけでなく、バミューダトライアングルの様な“魔のエリア”に入り込んでしまい、とんでもない事態に陥ってしまう事だってあり得る。
少なくとも“警戒すべき方向性”がわかるだけでも、かなりの有益な情報なのである。
しかし、どんなに警戒を怠らなくても、陥る時は陥るものだ。
特に“人の感情”や“人の心”というのは、決して簡単に予測する事はできない。
そして、こうした問題が起こる最中、川上の中に潜んでいた“最大の課題”が徐々に姿を現す事となるのである。
次回
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