「特別な体験」を盛り込んだリターンとして、我々は購入者のみが参加できる”限定イベント”や、ベトナムの工房で”ガズさんや川上と相談しながらセミオーダーでウクレレが作れる”など、様々な体験型のプランを用意した。
しかし、こうしたリターンプランを組み立てたところで、一体どれくらいの支援が集まるものなのかという具体的なイメージがなかなかつかなかった。
こういう時は、素直に“餅は餅屋に聞く”のが手っ取り早い。リターン価格の適正やプランの整合性を精査するために、我々はクラウドファンディングの専門家にアドバイスをもらう事にした。ウチの会社でもこれまでにクラウドファンディングの手伝いをした経験はあったが、完全に専門家という訳ではなかったため、肌感覚でプランの整合性が判断でき、プランの合理性を理屈で想定できる専門家の意見を聞いてみたかったのである。
そうして、おおよその計画に間違いがない事が確認できた。その上で、専門家のアドバイスに従い、細かな微調整を重ねる中で、ようやく我々のクラウドファンディングの企画の全容が形となったのであった。
また、今回のクラウドファンディングは、「READYFOR(レディーフォー)」というサービスを利用したのだが、このREADYFORでプロジェクトを申請するまでにも、細かいやり取りが山ほどあった。
そもそも、このREADYFORの審査に通過してプロジェクトを公開してもらわなければ話にならないのだが、勝手がよくわからない部分も多く、そもそも何を基準に審査しているのか、膨大な要項を読むだけでは理解できない事も多かった。しかも、担当者とはメールによるやり取りしかできなかったため、とにかく質疑応答だけで時間を多分に喰いそうな予感が満載であった。
そこで、READYFORとの煩わしいやり取りは、アドバイスをもらった経験豊富な専門家に任せる事とした。適材適所である。勝手をよく知っているので合理的だし、そうする事で、我々はいよいよウクレレの製造やクラウドファンディングのプロモーションに集中する事ができると考えたのである。
クラウドファンディングのリターンとして必要なウクレレの本数は「約120本」だった。
トムさんと川上とのやり取りでは、生産体制が稼働し始めれば一月に200本は製造できるという事だったので、実際にはいきなり200本とは行かずとも、納期までの月日もあることから、余裕を持った数字であると我々は考えていた。
もちろんトラブルもあるだろうし、最初から川上とトムさんの想定通りに事がスムーズに運ばないであろう事は織り込み済みであったが、それでも数ヶ月のマージンがあれば、雨降って地固まる位の余裕は十分にあるだろうと考えていたのである。
ところが、それでもまだ目論見は甘かったと認めざるを得ない悲惨な出来事が我々を待ち構えている事を、この時は誰も、まだ全く予想できていなかったのである。
実際にこの頃は、トムさんの工場では順調に“ガズのわがままウクレレ”を製造する環境が整い、川上が満足できるレベルの模作も仕上がっていた。
そこで我々は満を持して、正式に200本の“ガズのわがままウクレレ”をトムさんの工場に発注したのである。
200本の納期はおおよそ「三ヶ月後」という事であった。ただし五月雨式の納品となるため、二ヶ月後には第一弾が川上の工房に納品される予定だと言う。
ちなみに、ざっくりした予定ではクラウドファンディングでリターン送付が必要となるタイミングは「五ヶ月後」である。
川上とトムさんの人間関係も相変わらず良好な様で、“ここまでのところ”は、非常に順調であると誰の目にも映っていた。
一方日本では、プロジェクトの申請も無事終了し、クラウドファンディングのリターンであるイベントの企画の調整や、ステッカーのデザインや発注、そして、REDYFORのプロジェクトページの制作などが、極めて順調に行われていた。
そして、遂にクラウドファンディングの公開日が決まった。
2019年6月25日、我々の想いが詰まった念願のプロジェクトが、遂に公開される事になったのである。