さて、少し話は変わるが、クラウドファンディングのリターンとして大量のウクレレが支援者の手元に届けられたわけだが、実はここで少し、問題が発生していた。
リターンの発送は秋から冬にかけて行われたのだが、常夏のホーチミンと違い、日本には四季がある。
そのため、ウクレレをベトナムから発送した後、高温多湿なベトナムから寒く乾燥した日本という環境に移動することによる急激な”湿度差”や”温度差”で、木が微妙に伸縮してしまう事があったのだ。
もちろん、川上によってあらかじめそうした事を考慮した設計にはなってはいたものの、天然素材ゆえに、何本かはこうした影響を想定以上に受けてしまい、“弦がビビる”という現象が発生してしまったのである。
一応誤解が無いように伝えておくと、弦がビビるという現象は、特に我々のウクレレだから起こる現象というわけではない。さらに言えば、この「ビビる」という現象自体は大抵の場合、簡単な補修で修繕する事が可能だ。
しかし我々には、他の国産メーカーや、楽器店が取り扱う大手海外メーカーの製品にはない大きな課題があった。
それは、我々の工房がベトナムという“遠隔の地”にあるという事である。
軽度の補修であっても、工房までその都度差し戻すとなると、かなりの時間と余計なコストがかかってしまうのだ。
そこで登場するのが、弊社の“吉本”である。
彼の本業はWEBデザイナーだが、長年ギターを趣味としており、最近ではガズさんからの強い影響をモロに受け、すっかりウクレレにもハマっている。
さらに彼は、簡単な補修程度の事は自分でできる技術を持っているのだ。
しかし、“趣味のリペア”と“プロのリペア”ではまるで意味合いが違う。それは、“自分のもの”ではなく“お客様の大切な愛機”を預かるという重責を担うからだ。
故に、こういう事態に備えて、吉本は事前に川上からリペアに必要なスキルを教わっていたのである。
と、口で言うのは簡単だが、実際にそこには彼の“並々ならぬ日々の研鑽”があった事を伝えておかなければならない。
先述の通り、元々彼は、いわゆる“オタク”と呼べるレベルでギターにハマっていた事もあり、そもそも楽器そのものが大好きで、人並外れた“こだわり”を持っていた。それはもちろん、ウクレレに対しても同様だ。
それ故に、事ウクレレのクオリティに関して言えば、社内で一番厳しい目を持っている。
そのためリペアに関しても、とにかく一切の妥協が無かった。自分が納得できるまで、とにかく時間を掛けて作業を続けるのだ。
初めは慣れないから時間がかかるという事もあっただろうが、とにかく病的に作業に没頭し、午前様になる事や、休日を返上して延々と臨む事もざらにあった。
費用対効果や業務効率という観点で見れば、完全にアウトかもしれないが、こうした“弛まぬ研鑽の時間”を経て、彼は確実に“リペアマンとしての腕”を上げていったのである。故に文句は言えまいという事だ。
正直な話、彼との付き合いは長いが、一つの仕事にここまで真剣に没頭する姿を見たのはこれが初めてかもしれない。
ちなみに、以前のブログで、私が初めて工房KSP(川上が日本で営んでいた工房)に行った折、川上に客を紹介したという件(くだり)があったが、その客とはまさに彼のことであった。
彼は川上作のウクレレをいたく気に入っており、いまや完全に川上作品のファンと化している。
だからこそ、彼が川上の作ったウクレレの価値を誰よりも守りたいと思っている事は、言うまでもない事なのだ。
次回
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