予想通り、“トムさんの暴走”は止むことなく続いていった。
ネックサイドのポジションマークの仕様を勝手に変えたり、トムさんが用意したペグが当初予定していたものと違い、勝手に購入したペグの品質が著しく悪かったりと、様々なトラブルが発生したのである。
こうなると流石に川上も、これまで通りの“任せっぱなし”ではいられなくなる。ちょっと口を出す程度では、次々起こる問題は到底解決できないのだ。
そうして、川上の生活は激変していく事となった。落ち着いて家には居られず、トムさんの工場に毎日のように足繁く通い、神経質に工程を注視しなければいけなくなったのである。
「答え」を与える事はたやすいが、答えを自ら「導き出す術」を身につけさせる事は相当に難しい。
私見だが、こういう事は理屈で教えられるよりも、修羅場の中で自らが心の底から「答え」を欲し、脳が沸騰するほど考えに考えぬく経験を積み重ねて体得するのが一番身に付く方法であると私は考えている。
言い換えれば、一種の環境適応の様なものである。
昔別のブログでも書いたが、『ある時、いきなりたった一人で水道も電気もない無人島に放り込まれた時、人は一体どういう行動をとるだろうか?』という話なのである。
水や食料を確保する事も、安心して寝られる寝床を探すのも、雨風をしのげる環境を用意する事も、暖をとる事も、全て一人で考えて、判断し、行動しなければならない。
サバイバルの素人であろうが玄人であろうが、ここで努力を怠り、善処できなければ、待つのは“死”あるのみなのだ。
ここでダーウィンの進化論を持ち出すと大袈裟に聞こえるかもしれないが、最も生き延びる者は、まさに「変化に対応できる者」であり、経営やビジネスの真理もそれと全く同じであると私は考えている。
映画「キャスト・アウェイ」では、無人島に放り出された主人公(トム・ハンクス)が、初めは慣れない無人島生活に四苦八苦するものの、月日が経つごとにその環境に順応していき、映画の中盤以降では、不本意ではありながらもそれなりに順調な暮らしぶりで生きていくさまが描写されていたのがとても印象的だったが、言いたいのは、まさにそれなのだ。
主人公は誰かに生き方を教わったのではなく、置かれた環境から自分一人で考えて自ら学んで“生き抜いた”のである。
そういう意味では、こうしたトラブルだらけの状況は、川上にとっては当然不本意であっただろうが、彼のマネジメントスキルを磨くのには恰好の教材であったのは間違いなかった。
言ってみれば、一種の「環境適応プログラム」である。
もちろん、川上にそこまで過酷な環境を体験させようなどとは露ほども思っていなかったが、問題の当事者として、一職人ではなく、工房のリーダー(責任者)として、フル回転で頭を使い、最善を追求する姿勢をぜひ身につけてもらいたいと思っていた。
その試行錯誤の結果、まだこの段階では問題の“根本の解決”にこそ至らなかったが、必死で解決を図る中でいくつか良い成果も得ていた。
例えばペグの品質の問題については、川上の指示の下、アンさんとトムさんが共同でペグを探し直したのだが、結果として、“ガズのわがままウクレレ”にふさわしい良質なペグを発見する事ができた。
さらに、トムさんが巧みな木工技術を駆使して加工を施したオリジナルの”木製専用ツマミ”を開発し、それが採用される事となったのである。
この木製ツマミの付いたペグはガズさんも大層気に入っており、結果的には“ガズのわがままウクレレ”を象徴するパーツの一つとなったのであった。
\ R A N K I N G /
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