もう一つ、結果として今回の訪越で達成しきれなかった事があった。
今後の方針や進め方について、川上と十分な話ができなかったのだ。
兼松に関して言えば、彼は学生時代からの私の後輩であって、オンオフ関わらず互いに良いところも悪いところも分かりきった仲である。
加えてこのウクレレソリューションを通じ、これまで以上に密な連絡を常日頃から取り合っており、さらに兼松自体が私の考えに察しが良過ぎるほど良いという事もあって、全体会議はともかく、個別という意味では訪越時に敢えて特別に時間を割く必要もないと考えていた。
川上に関しても、同様に普段から連絡を取り合ってはいるし、厚い信頼を寄せている事には変わりない。
しかし、仕事におけるいわゆる「報・連・相」という点では、彼はどちらかと言えば口下手な男なのである。
だから、こういう機会にしっかりとトピックスを提示し、膝を突き合わせて、もっとじっくりと“腹を割った話”をしておきたかったのだ。
もちろん、その時点でできる限りの話をしたつもりではあった。
しかし敢えて今、ここにこのようにしたためる理由としては、”話をし尽くして理解を得きった”という実感を、その時私自身が十分に得られていなかったからである。
さらに一番不足していたのは、私が話す事ではなく、川上の話をもっと良く聞く事だった。
もちろん、一連のやり取りに特に不都合らしい不都合はなかったし、聞くべき事はしっかり聞いてきたが、何故か、その様な違和感を拭えずにいたのだ。
そしてこれが、この訪越における“最大の痛恨のミス”であった事を、私は後に思い知る事となる。
こうして、いくつかの宿題を現場に残す形で今回の訪越は幕を閉じたわけだが、私の帰国直後から、“世界のルール”は目まぐるしく変わっていく事となる。
コロナウィルス蔓延の影響で、渡航に著しい制限がかかり、事実上、国家間の往来が一切できなくなってしまったのだ。
幸いな事に、国家間の物流については、かなりの制限はかかったものの完全に止められたわけではなかったが、それでもこの異常事態は、二つの国に拠点を置く我々にとって、あらかじめ構えていたとはいえどもかなりの痛手となった。
話は逸れるが、テレワークというのは非常に便利な手段だ。
うちの会社がベトナムに進出した当初は、日越のやり取りでは主にSkypeを活用していた。
しかし、当時のベトナムでは通信環境が今ほど整っていなかったため、チャット程度ならば問題なくとも、音声通話となるとかなりの難があり、苦労したことをよく覚えている。
しかも、wifiでの接続が前提であって、当時は携帯電話の通信ネットワークを使った無料通話など、その概念すらまだなかったのだ。
しかし、現在では音声通話どころか、映像によるビデオ通話も、スマホ(アプリ)の普及や通信料定額プランの登場により、誰でも簡単に、どこからでも手軽にできる世の中となった。
正直、今回のコロナ騒動も、こうした技術の進歩や通信環境が整った時代であったのは、不幸中の幸いと言わざるを得ない。
おかげで、今回の訪越でも、ガズさんと工場とでSkypeを繋いで合同会議を行ったのだが、全く不都合はなかったのだ。
しかし、どんなに秀逸な手段であったとしても、決して万能ではない。
仕事のコミュニケーションの全てをテレワークで実現するというのは、“現時点において”は、私的にはやはり無理があると考えている。
細かい理屈も多々あるが、特にここで言いたいのは、直接面と向かって話すのと、遠隔の相手と画面越しに話すのでは、“コミュニケーションの質”にかなりの乖離があるという事だ。
野球やサッカーの試合などは、一見すると、むしろテレビで見た方が、見るべきところにスポットが当たっているため、圧倒的にわかりやすい。
しかし、生の試合会場には、生でしか味わえない代え難い空気感や雰囲気という価値がある。
生でしか味わえない、緊張感や一体感があるのだ。
もちろん、テレビ中継にはテレビ中継の価値(良さ)があるし、生観戦には生観戦の価値がある。
しかし、これが仕事となると、生の方が圧倒的に“言葉の訴求力”が高いと私は痛感しているのだ。
ある意味、今回のコロナ問題というのは、“人が人と会って話す”という、これまで当たり前であった事の価値を最大限に高めたとも言える。
もちろん、変化に対応しなければ生きていけないので、新しい世界の価値観とルールに従い、後は“慣れる”しかない。
遠隔のやり取りであっても如何にコミュニケーションの質を落とさないか、仕事の質を下げないかが、今後の我々にとって当面の大きな課題となったのである。
持てるテクノロジーを駆使して、従来型のコミュニケーションに如何に近づけるかというアプローチで考えるのか、従来のコミュニケーションに捉われず、新しい価値に基づいた手段を構築すべきなのか、非常に悩ましいところだ。
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