さて、このあたりで話を元に戻そう。
川上不在の中で行われた、今後の方針に関するガズさん、兼松、淡路、そして私の4人での緊急ミーティングの内容を川上とも擦り合わせるため、改めてガズさんと私、そして川上の3人でのミーティングが行われる事となった。
もちろん、川上の復帰後、納期に向けた最後の残作業を終えてからだ。
作業に復帰した川上は、まだ全開という状態ではなかったものの、それでも残作業をリスケの想定内でやり遂げる事ができた。
そして、3人でのミーティングがとり行われる事となった。
改めて文章にしようとするとよくわかるのだが、このミーティングは一言で言うと「薄味」であったと実感している。
まず、工場の抱える現状の問題点の共有に始まり、その問題解決の方針や、新たな役割分担など、先述した4人でのミーティングに関する様々な報告や、それらに対する私やガズさんの意見を川上に伝えたところ、彼の反応は、“良くも悪くも”、全てにおいて「その通りだと思います。」という肯定的なものだった。
生返事だというわけではなかったし、真面目に話し合いに参加していなかった訳でもないのだが、私も、おそらくガズさんも、少なからず違和感と妙な胸騒ぎを感じていた。
このミーティングの中で最も川上が意見を述べたのは、議題が「職人への教育」に関する事になった時だ。
掻い摘んで言うと、”手に職をつける”というように職人としての基本技能を身につけるためには、相当な鍛錬が必要であり、それには時間がかかるというものだった。
私からだけでなくガズさんからも、それらの課題をクリアするための様々なアイデアがいくつか出されたのだが、話をしていてわかったのは、川上自身の中に、”プロの職人である自分自身”と、”素人である我々”との間には、我々には想像がつかない様な“深い溝”があるという事だ。
とはいえ、それ自体は決して悪い事ではない。”それでこそプロ”とも言えるし、至極当たり前な話だ。それは議題の本旨ではない。
それよりも大事なのは、「そうであったとして、どうするか?」なのだ。
もちろん、教育に時間が掛かるからと言って、教育をしないというわけにはいかない。
問題は二つで、中期、あるいは長期的になったとしても、「実務の中でどう効率的に職人技能を学ばせるか?」という事と、短期的には「今工場に足らない技術、リソースをどう補うか?」という事である。
実のところ、短期的な方は、既に我々からの報告の中でも答はおおよそ定まっていた。
“手練れの増員”として、塗装職人のロンさんから職人の紹介を受ける事と、既に予定はされていたものの川上の多忙のためペンディングとなっていた、作業簡略化と効率アップのための”機械の導入”を急ぐという事だ。
そしてもう一方の、今後継続的に行っていく職人の基礎技術の向上のための教育に関しては、私やガズさんでは想像できない領域であるという判断から、次回のミーティングまでに、川上が宿題としてその方法を検討するという事で話は纏まった。
漫然と妙な不案を感じながらも、会議は一応の体を成し、その幕を閉じた。
しかし、私やガズさんも感じていたであろう得体の知れない不安は、この後、思わぬ形で的中する事となる。
次回
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