川上ダウンの背景を淡路くん、兼松に確認したところ、それぞれの立ち位置からの意見であり視点は違ったものの、語られたおおよその問題点というのは、予想通り、次の様な話だった。
まずは、全工程の中で、ボトルネックは大きく分けて三箇所あり、いずれの箇所も、川上にしかできない作業となってしまっているという事だ。
そして、いずれの箇所も他の職人に教育を施した事があるものの、未だモノに出来ておらず、納期に追われる中で失敗を繰り返す余裕も無く、結局のところ、今でも全て川上自身が担ってしまっているという事だった。
今回、川上がダウンした時に取り掛かっていたのは最終の「仕上げ工程」にあたるところだが、その他のボトルネックとして挙がってきたのは、「ネックの細かな成型」や、組み上がったボディとネックを繋げる「ジョイント」と呼ばれる作業だ。
いずれも繊細な作業で、職人としての経験値が問われる非常に難しい作業である事は間違いない。
実のところ、これらのボトルネックの存在については数ヶ月前から課題として挙がっており、都度工場内でもその改善に当たってはいた。
実際に先述の通り、この課題の解決のために実戦の中で職人への教育を施したが、現時点では習熟が足らず、未だ任せられないというのがその時点での判断であったという事だ。
また、とは言え納期に追われる状況を少しでも助けようと、手先の器用な兼松がその中でも比較的簡単な作業を川上に教えてもらい、手伝おうとした事もあったらしいが、想像以上に熟練の職人にしかわからない感覚的な作業だったため、やはりかなりハードルが高く、その心意気は無惨に散ってしまったという事だ。
また、「ジョイント」の作業だが、これは以前より工程上の「難所」として挙げられていた。
そのため、川上自身のアイデアから、クオリティをしっかり維持しつつも作業を簡略化して効率を大幅に上げるために、専用の機械の開発を予定していたのだ。
この機械の開発は兼松の伝で、ベトナムにある日系企業に既に依頼しており、現在は川上の要望を取りまとめ、設計の最終調整をするというステータスとなっていた。
しかしその川上が作業に忙殺されてしまっており、その調整のための打合せ自体が、かなり遅れてしまっているという事だった。
他にも重要な話はあったが、まずはここまで聞いた感想として、言うまでもなく、全体として非常に「不味いベクトル」に向かっているという事だ。
残酷な物言いとなってしまい恐縮だが、言い換えれば、川上がこの先どれだけ”川上的自己犠牲”を払おうとも、現状のやり方を続けているだけでは、全体は1mmも改善できないし、成長もできないだろうという事だ。
何故なら、どれだけエネルギーを使おうとも、「工場全体が成長する要素」が全く無いからだ。
つまり、せっかくの「尊いエネルギー」を向ける方向がそもそも間違っているという事なのだ。
だが、それをストレートに伝えたところで、川上本人の理解を得るのはすぐにはなかなか難しいだろう。
何故なら、川上自身は既に、必要と考える事を全身全霊をかけて一生懸命やっているからだ。
そのやり方に問題があるにしろ、工場のために全力を投下している人間には、まずは最大限の敬意を払わねばならない。
だからこそ、「個」ではなく、あくまで「全体」としての解決を見出す事が今回のミッションだ。
ちなみに、この問題を解決するための「魔法の様な特効薬」はない。
だが、痛みを大幅に緩和しながら、確実に前に進む方法はある。
もっと言えば、「多少の痛みを伴うが、価値がある」やり方だ。
次回
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