工場に到着した私がまず最初に行ったのは、ベトナム人スタッフ全員との個別面談だ。
普段から言葉を交わしている川上や兼松ではなく、ベトナム人のスタッフから直にウクレレ製作やこの工場の話を聞く事は、いつもと視点が違い、とても新鮮で興味深い。
この面談では、敢えて本題である“工場の問題”などは取り上げなかったが、ごく自然体で近況報告などの世間話を弾ませる方が余程、こちらの欲しい情報が計らずとも自ずから手に入るので面白い。
それに私自身、具体的にどういう人がこの工場で働いているのか、これまで挨拶程度の会話しかできいなかった事もあり、川上や兼松からの報告からしか知らなかったため、本当に興味津々だったのだ。
面談が一通り終わり、まず私が思ったのは、この工場は大変ありがたい事に“とても良いスタッフ”に恵まれているという事だ。全員とても人柄が良く、全体の雰囲気も悪くない。
そして、全員が基本的に真面目で、仕事に対してのやる気もある。
しかし、致命的に“ダメなところ”も明確に理解できた。
彼らは目の前に与えられた仕事は真面目に一生懸命こなすが、全員“その先”にあるものが見えていなかったのだ。
今やっている仕事の先に、自身がどう成長してどうなっていくのか、という“明確なビジョン”が持てていなかった。
これまでのドタバタの中で、やむを得ず“場当たり的な対処的作業”を強いられてきたのだから仕方のないところでもあったが、当然、このままではダメだ。
各々が仕事をこなす中で、一歩ずつ”前進”していると実感が持てる環境で仕事ができなければ、向上心は育まれないのである。
まずは、どうなれば「良い」という評価がされるのかという“組織の物差し”を明確に示し、全員に共通する”組織の尺度”を作る必要がある。
面談の中で、私はそう痛感した。
組織の中にあって、こういう物差しはとても大事だ。
スコアの基準が明確でなければ、合理的な評価も当然にできない。
また、その辺りがしっかりしていないと、評価する側の好き嫌いで評価がされるという誤解も与えかねない。
つまり、どうなれば“一人前”として認められるのかという事を明確にするという事なのだ。
これが明示される事で初めて、職人としての当面の目標が決まる。
その上で、さらにその先に続く道で”優れた管理職”を目指すのか、”秀でたクリエイター”を目指すのかは、企業としての客観的な判断と、本人の素養と努力と意志とで、葛藤しながら検討して行けば良い。
何はともあれ、会社としては、まずは”職人”として認められるまでの明確な”道筋”を立てる事が肝要なのである。
まずは「何を持ってスコアを決めるのか?」だが、これは簡単だ。
作業を“ある程度のサイズ”に細分化し、各作業項目を10段階で区切って評価すれば良い。
ここでのポイントは、”ある程度”のサイズに区切るという事だ。
細かすぎると管理も煩雑になる上に、評価される側が滅入ってしまい、萎えてしまう。
逆に大雑把すぎると、段階が少な過ぎて”底の浅い仕事”と誤解されるかもしれず、しかもいざやってみると、実際には見るべきポイントが多過ぎて一つの区切りがなかなか達成できず、これまた萎えてしまうわけだ。
つまり、“丁度良い塩梅”である事が非常に重要なのである。
ちなみに最高レベルである”レベル10”というのは、もちろん川上が基準だ。
とはいえ、いきなり川上レベルを目指せというのは無茶な話なので、“及第点”をレベル7ぐらいで設定すれば良い。
レベル7を達成できれば、一先ずその作業項目は”一人で任せられるレベル”という訳だ。
この作業の細分化に関しては、兼松の得意分野である上に、これまでのタスク管理の中で、ある程度の原型は既にできていたから、然程手間がかかるものではなかった。
また、この“作業のスコア化”を行う過程で、生産フローもある程度は見えてくる。
まさに“一粒で二度美味しい”というわけだ。
私は全員を招集し、このスコア制について説明を行った。
そして、及第点が得られた作業項目の数が増えれば、必ず昇給すると皆に約束した。
しかし、この工場が抱える問題は、当然にそれだけではない。
私の滞在期間は3日しかなかった。
その間にどれだけの改善案が打ち出せるか、時間との勝負である。
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