さて、いよいよ“三人のベテラン職人”の本稼働がスタートした。
兼松からの報告によれば、彼らは早速、“手練れの職人”の名に違わぬ“素晴らしい仕事ぶり”を見せているという事だ。
現状のG-Labo工場における生産は、“管理のスペシャリスト”である兼松による、かなり詳細なタスク確認の元に立てられた、“緻密なスケジュール”に沿って行われている。
少しテクニカルな部分としては、複雑に絡み合っている多様なタスクの中で、随所に若手職人の基礎技術の向上のための研修時間を盛り込んでいる事だが、これを含めて、今のところ、随所で“想定外のイレギュラー”の発生はあるものの、それでも、ほぼ予定通りと言って良い動きを見せていた。
流石の兼松であり、それを適時フォローしている淡路の功績だ。
しかし、実のところ、少し前までは、“想定外のイレギュラー”の発生に兼松自身が頭を抱えていた。
というのも現在、生産と同時に、業務改善の一環として、ウクレレ製作に使用する治具(手製の道具)の改良をゴックさんを中心に行っているのだが、それに想定以上に長く時間を要してしまったり、また兼松が考えていたより多くの治具を新たに製作しなければならなかったりということが起こり、予定外のタスクが増えるという事態がしばしば起こっていたのだ。
川上が不調な事もあり、そうした業務改善タスクは現主力であるゴックさんを中心にして計画しているため、もちろん喫緊に必要な事とはいえ、一方の生産速度のアップのためには主力の全てを投入する事ができず、兼松の“緻密に計画を立てる性格”も祟り、まぁまぁの悩み事となっていたというわけだ。
加えて、これまで奔放に作業を進めてきた職人達に、いきなり細かなタスクや、全体的なスケジュールを理解してもらい、秩序だったやり方で作業を推進させるという事自体、もちろん簡単なことではなかった。
どうしても、タスク通りではなく、マイペースに仕事をされてしまい、それも彼の悩みの種となっていた。
こうした事態に対して、私が兼松に提案したのは、“あの人”に相談したらどうだろうか?という事であった。
あの人とは誰か?皆さんは想像がつくだろうか?
そう、あの人とは、G-Labo工場における最年長者である、“塗装職人のロンさん”だ。
私の印象では、彼はG-Labo工場における“お父さん”の様な存在で、ヤンさん、デニーさんという若手職人からは当然としても、ゴックさん、ヒエンさん、ダットさんという新たなベテラン職人達からの尊敬もあり、信頼も厚い。
また、全てのベトナム職人達の中で、最も論理的な話が通じるのだ。
逆に言えば、ロンさんに兼松の言葉が伝わらない様であれば、根本的にやり方を変えねばならないとも言えるわけである。
兼松から現状の問題とタスクやスケジュールに関する話を聞いたロンさんは、直ぐに事情を飲み込み、ゴックさんを中心とした職人スタッフ一同を集め、その内容を説明した。すると、驚くほど、秩序的に物事が動き出したのだ。
そして、新人ベテラン職人である三人が揃ってタスク通りに動き出した時、これまで川上にしかできなかった作業タスクが、我々の度肝を抜く、何と兼松の想定の“3倍の速度”で進んだのである。
どれだけ最高なシナリオがあっても、それを演じる最高なキャストや、それを支える最高な黒子がいなければ、最高な作品が生まれる事はない。
それと同様に、最高な人材がそれぞれの役割を理解し、全力を持って最適な計画に従って遂行しなければ、最高な仕事はできない。
ポジティブな報告そのものももちろん嬉しかったが、それ以上に、ようやく“組織”としての機能が垣間見れたこの出来事は、小さくとも、間違いなく大きな一歩であったと言っても良いだろう。それが何よりも嬉しくて仕方ないのである。
次回
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