< vol.3 「ここは海賊のアジト?驚愕のベトナムウクレレ工場!?」
続いて印象に残った工場は、一軒目のカオスな工場の次に訪れた二軒目の工場だった。
一軒目の工場から車を走らせる事一時間半、目的地に到着した我々を出迎えたのは、工場のスタッフではなく、道を闊歩する驚くほど巨大な豚だった。
恐らくは誰かに飼われているものだと思うが、これがとにかく牛みたいにデカくておっかない。ガズさんはこの豚を「野良豚」と言っていたが、まさにそんな感じである。我々はその巨大な豚を足早に避けて、目的地である工場に逃げ込むように訪れた。
外を徘徊する豚はともかく、この2軒目の工場は本視察ツアーで訪れた工場の中で、最も工場らしい工場だった。一軒目のカオスな雰囲気の工場と違い、いわゆる我々日本人がはっきりと工場と認識できる出で立ちで、広々としており、製造に使う機械や器具などは素人目に見ても近代的でしっかりしており、生産ラインに合わせて整然と配備されていた。
製作されたパーツや組み上がったウクレレも綺麗に管理されていた。とても安心できる光景である。
もっとも、一軒目のカオスな光景がかなり衝撃的だったので、その反動でより美しく整然と見えたかもしれないというのも否めないが。
我々は応接に通され、この工場のオーナー(社長)との打合せがスタートした。
私がこの社長に持った率直な印象は、職人というよりは、やり手なビジネスマンといった感じだった。彼は強気な口調が印象的で、自社の製品に対して絶対の自信を持っていた。
川上くんが製作してベトナムに持参した試作ウクレレの模作をお願いした際には、当人を前にして、やや煽り気味に、「これ以上にはるかに素晴らしいものを自分達は作る事ができる」と豪語し、製作単価においても、堂々と一軒目のおよそ2.5倍ほどの単価を提示してきた。
彼の物言いは強気で自信に満ち溢れており、パートナーを探す我々としてみれば、確かに頼もしい発言とも取れるが、私はやや聞かん坊というか、一方的とも、少々失礼とも取れる彼のセールストークには少々思うところがあった。というのは、こちら側の要望を聴くという事を彼が軽んじているように見受けられたからである。
ベトナム人とビジネスの話をする際に有りがちなパターンとして、こちら側の要望や質問に対して、ダイレクトな回答ではなく、論点とは直結しない持論や価値観を一方的に展開されて、会話がうまく噛み合わないという事がしばしば起こる。
おそらく相手方にも想定している結論があっての事だと思うが、大抵の場合、こちらの前提とする価値観と相手方が前提とする価値観、また、こちら側が意図する結論と相手方が意図する結論には、大きな乖離がある。
今回のケースで言えば、「オーナーが良いと思っているウクレレ」と、「我々が良いと思っているウクレレ」では、そもそも価値観の”物差し”が違うのだ。本来であれば、まずは依頼する側であるこちらの尺度(価値観)を充分に理解してもらい、それに見合ったモノが作れるかどうか?を確認するというのがセオリーなのだが、こちら側の話を真摯に聞かないのであれば、そういう乖離が発生するのは、必然であると考えるのが妥当であろう。
つまり、彼が自信を持ってできると言っているのは、あくまで、“彼が良しと考えているウクレレ”についてであろう事は、やりとりの中から容易に推測できたのである。
とはいえ、今回は明確な”物差し”たる試作ウクレレがあるので、彼の話がどうであれ、その模作の出来映えを見さえすれば一目瞭然である。そして、それ以上に、こうした前後のやりとりこそが、パートナー探しが主題である今回の視察にとって最も重要な”見るべきポイント”であった事は言うまでもない。
余談だが、私は誰かとビジネスを始める時、最も重要なのは「最初の打合せ」であると考えている。
それから先のビジネスは全てこの「最初の打合せ」の延長線上にあり、その後の人間関係のあり様も、仕事の段取りややり方も全てこの「最初の打合せ」のあり方で、かなりの精度で占う事ができるものと思っている。
私にとって「最初の打合せ」は今後の相手方との「ビジネスの基礎」を見定めるための、最初にして最も重要な仕事なのである。それはもちろん、この視察ツアーにおいても例外ではなかった。
話は戻るが、誤解がないように付け加えると、この工場で製作されていたウクレレが決してダメであったという事ではない。
一軒目との比較でいえば、数段作りもしっかりしていたし、鳴り(音の響き)に関してだけで言えば、ガズさんも川上くんも評価しており、この視察ツアーの中ではトップクラスに素晴らしかった。
しかし、さすがに試作ウクレレと比較すると、素人でもわかるレベルで明らかに完成度が違う。作りそのものの精巧さもそうだが、音質(音の深み)がまるで違うのだ。
しかし、これは手前味噌な話だが、それほどまでに川上くんの試作ウクレレのレベルが高かったから仕方ないと言わざるを得ない。
あくまで私見だが、この試作ウクレレは、自分の持っているKAMAKAやMartinなどのトップブランドのフラッグシップモデルと比較しても、全く遜色のないレベルで、GAZZLELEの様な弾き語りを主体とした使い方をするのであれば、少なくともプレイヤビリティにおいては優っていると言っても過言ではないと自負している。
故にこの社長は、オファーの受け手の職人としてもっと細かな違いに興味を持ち、こちら側の話をもっと真摯に聴いたり、質問しても良かったのではないか、と思ったのである。
とはいえ、社長自ら自信満々に「これ以上のウクレレを製作できる」と明言した事もあって、我々は一軒目と同様に、この工場にも試作ウクレレの模作を依頼する事にした。
次回、「タクシー運転手の紹介!?麻薬密造工場みたいなウクレレ工場!」に続く。
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