そして、話はベトナム工場視察の最後の夜に戻る。
川上くんは“あの時”― そう、ベトナム視察の同行を私に申し出る前と同じ表情をしていたのだ。
彼が何を考えているのか、私にはわかっていたが、敢えて聞いてみた。
すると彼は「自分がベトナムに移住し、自らの手でウクレレを作る事を本気で考えている」と言った。
私は川上くんに、できればベトナムで現地監修という形で、このプロジェクトに協力して欲しいと思ってはいたが、自分からは決してそれを言っていなかった。我々から願い出るよりも、彼が自分の直感と湧き出る思いに付き従って自分自身で考えて決める事が、彼にとっても我々にとっても圧倒的に価値のある決断となる事は明らかであったからだ。
ベトナムという国が持つとてつもないエネルギー(ポテンシャル)と、同じくエネルギーの塊の様な存在であるガズさんは、間違いなく、川上くんに大きな影響を与えた様である。
彼の申し出は、私もガズさんも当然に大歓迎であった。だがそれよりも先ずは、彼の奥さんに相談をして決めるべきであろうという事で、彼のベトナム移住については、帰国後、彼からの報告を待つ形となった。
帰国してから数日後、川上くんから正式に「ベトナムに移住して働きたい」という連絡があった。 奥さんも彼と共にベトナムに移住するという事だ。奥さんであるユさんは韓国人で、彼女の話によれば、「自分にとっては、日本もベトナムも外国であるので、今回の移住は特に抵抗はない」という事である。
しかし実際のところ、当時の彼女は日本企業に正社員として勤めており、そこでは非常に優秀な社員であるという評価を得ていた。故に、このベトナム移住にはそれなりに大きな不安があったと思うし、当然に、大きな決断であったとも思う。しかし、この彼女の後押しこそが、野に埋もれていた優れた個性を世界に解き放つ決め手となったのである。
そして、今は詳細を語らないが、後に川上くんを取り巻くことになるベトナムでの様々な波乱の中で、彼女の存在が非常に重要な役割を果たす事になろうとは、彼女自身、全く予想していなかったに違いない。
ともあれ、川上くんのベトナム移住が決まったところで、ここからは物事はトントン拍子で進んでいく。
次回、「vol.11 歯車が動き出す!視察の果てに得たものは?⑥」 に続く。
\ R A N K I N G /
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